香車は下段から

将棋のブログ。プロ棋戦、自戦記、戦型考察等々。

将棋日本シリーズ JTプロ公式戦 1回戦第二局 菅井竜也八段対斎藤慎太郎八段

こんにちは

今回から新たに将棋日本シリーズのレポートを挙げようと思います。将棋日本シリーズは、「持ち時間10分、使い切ったら1手30秒、考慮時間各1分x5回」のいわゆる超早指し棋戦で超トップ棋士のみが参加できる独特の棋戦です。公開対局で棋士は和服着用が義務付けられており、将棋ファンとしてはうれしい限りですね。

今年のトーナメントは、1回戦第一局で羽生九段がまさかの逆転負けと波乱の開幕となっていましたが、先日1回戦第二局の菅井竜也八段と斎藤慎太郎八段の一戦が岡山県「総合グラウンド ジップアリーナ岡山」で行われました。岡山県と言えば、菅井八段の地元だそうですね。

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初手から

▲5六歩    △3四歩    ▲5八飛    △6二銀    

▲5五歩    △4二玉 ▲7六歩    △3二玉    

▲4八玉    △4二銀 - 図1   

振り駒で菅井八段の先手番となりました。注目の作戦は、初手▲5六歩からの先手中飛車でした。これに対して斎藤八段は、飛車先の歩は保留したまま玉を深く寄せていき、△4ニ銀として急戦調の将棋を目指されました。

 

図1から

▲3八玉    △7四歩 ▲2八玉    △7三銀    

▲6六歩 - 図2   △5二金右  ▲3八銀    

△1四歩 ▲1六歩    △7二飛 - 図3

菅井八段が玉を深く進める間に、斎藤八段は足早に△7四歩~△7三銀と攻めの体制を築こうとされました。このような”超速銀”と呼ばれる足早な銀の動きに対して、中飛車側も呼応して銀を繰り出す”銀対抗”で対応するのが良くある指し方ですが、菅井八段は▲6六歩と陣形を盛り上げてこられました。解説の久保九段曰く、一昔前に「菅井新手」と呼ばれていた指し方らしいです。以降駒組が進み、△7二飛と袖飛車に振った局面で、菅井八段の封じ手となりました。

 

図3から

▲5四歩(封じ手)   △同 歩    ▲同 飛    

△3三銀 ▲5九飛    △4四銀    ▲6八銀    

△6四銀    ▲4六歩    △5五歩 - 図4

封じ手は、積極的な▲5四歩でした。菅井八段が一歩を手にして飛車を最下段に引き付けたの対して、斎藤八段は両方の銀を4段目に繰り出し△5五歩と中央の位を取りました。一方の菅井八段は、金銀は低く構えたままで歩のみ前線に進め「歩越し銀には歩で対抗」の形に進められました。そろそろ中盤戦です。

 

図4から

▲6五歩    △同 銀    ▲4五歩    △同 銀    

▲5五角    △同 角 ▲同 飛    △5四銀左  

▲6五飛    △同 銀    ▲5五角 - 図5   

天王山の位が安定すると作戦負けになるとみるや、菅井八段は4筋6筋の歩越し銀への歩の突き捨てから5五の地点で角交換を挑まれました。▲5五飛に対して、斎藤八段は△5四銀左と銀の連結を保持しながら飛車にあてましたが、菅井八段は勢いよく飛車で後手の銀を食いちぎり▲5五角打とされました。

 

図5から

△3三角 ▲9一角成  △7一飛    ▲5三歩    

△6二金    ▲7七桂    △5四銀 ▲2五銀 - 図6   

図5の局面は先手の駒損ですが、AI先生は+132互角と評価されていました。以降▲9一角成で駒損を回復し、▲5三歩の「たたきの歩」で後手の陣形を弱体化し、▲7七桂と銀取りにしながら後手の角道を止め先手好調な手順が続きました。

 

図6から

△8九飛    ▲5九金左  △9九飛成  ▲3四銀    

△4四角 ▲4八香 - 図7   △3三歩    

▲4四香    △3四歩    ▲3六角    △4五銀打

▲同 角    △同 銀    ▲5五馬    △4四歩 ‐ 図8   

斎藤八段も△8九飛打と反撃を試みますが、▲5九金左した先手の形が非常に堅かったです。菅井八段好調の手順が続き、▲3四銀~▲4八香と後手の角が攻められ斎藤八段苦戦にみえました。しかし、斎藤八段も丁寧に指し進め、実際AI先生の評価ではそれほど形勢に差はついていませんでした。

 

図8から

▲6五桂    △8九龍 ▲4四馬    △4二香    

▲1一馬    △3三角    ▲同 馬    △同 桂

▲1五歩    △5四銀 - 図9    

▲6五桂~▲4四馬は気持ちよさそうな手順でしたが、斎藤八段も△4ニ香~△3三角打と丁寧に指し継ぎ、▲1五歩の端攻めを無視して△5四銀と味良く桂取りにしながら香車の利きを通しました。見応えのある中盤戦です。

 

図9から

▲4六歩    △6五銀    ▲1四歩    △4六香

▲4七歩    △5八歩 - 図10   ▲同金直    

△5四香    ▲5七香    △5六歩 ▲1三歩成  

△5七歩成 - 図11 

図9の局面は、AI先生の評価値が+5と全くの互角でしたが、以降△6五銀と先手の桂馬を奪うことができ斎藤八段が指しやすそうにみえました。その後手筋の▲5八歩(図10)が入り、堅陣だった先手玉にもキズが入り始めました。以降互いにと金を作り、局面は終盤戦となっていきます。

 

図11から

▲同 金    △同香成    ▲同 銀    △4七香

▲4四香 - 図12    △4三歩   ▲2三と    

△4二玉    ▲3三と    △5三玉 - 図13

斎藤八段ペースで終盤戦が進みました。途中菅井八段が後手玉の退路封鎖に▲4四香打(図12)と指されましたが、ここでは斎藤八段に△1六桂打から先手玉を即詰みに打ち取る手順があったようです。21手詰めで持ち時間もなく難易度が超高いです。この手をスルーしても形勢はまだ後手優勢の局面だったのですが、図13の△5三玉が良くなかったようです。この手に代えて、AI先生は堂々と△3三同玉とする手を推奨されていました。

 

図13から

▲4三香成  △6四玉    ▲8二角 - 図14   

△7三角    ▲7一角成  △5七成香 ▲8五桂    

△8四角    ▲4五飛    △5四金    ▲5三銀    

△同金引 ▲6二馬 まで先手の勝ち

斎藤八段は、「中段玉寄せにくし」と玉を繰り出して行きましたが、▲8二角打の王手飛車が厳しかったです。以降も菅井八段が▲8五桂打~▲4五飛打と正確に指し進め、▲6二馬となった局面で後手玉が必至となり、斎藤八段無念の投了となりました。

一局を通して、菅井八段が指しやすそうな中盤で斎藤八段のバランスを保つ丁寧な差し回しは勉強になりました。最後の21手詰みの発見は、相当難易度が高かったですね。トップ棋士同士のハイレベルな戦いは見応え十分でした。

 

今回は、この辺りで失礼します。

 

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