香車は下段から

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SUNTORY 将棋オールスター東西対抗戦2023 その2

こんにちは

前回に引き続きSUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2023の振り返りを行っていきたいと思います。今回は、2勝2敗で迎えた注目の第5局から見ていきます。

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第5局 先手:増田康宏七段(東) 後手:山崎隆之八段(西)

山崎隆之|棋士データベース|日本将棋連盟 (shogi.or.jp)

増田康宏|棋士データベース|日本将棋連盟 (shogi.or.jp)

実力はもとよりストレートな言動でも話題の増田七段と関西で絶大な人気を誇る山崎八段の一戦です。この一局に向けて、山崎八段は並々ならぬ決意で戦いに挑んだようです。戦型も後手番の山崎八段が△3三金型、早い段階での端歩突き越しという具合に、若干挑発的に局面を進めました。一方の増田七段はオーソドックスに現代流行の4八金九飛型の攻撃陣形を組み上げました(図13)。中盤戦、増田七段は▲4六角の自陣角を据えた後玉を深く穴熊に組み上げます。これに対して山崎八段は駒を中央に盛り上げ抑え込みを図ります。二枚の桂馬が五段目に並んだ局面は(図14)中央の厚みが圧巻です。

非常に長い中盤戦で互いに我慢比べをしながら均衡を保つ難しい局面が続きましたが、増田七段が中央の桂馬を銀で食いちぎったあたりから局面が動きます(図15)。これを待っていたかのように以降山崎八段が先手玉頭に激しく迫りました。堅陣だったはずの先手玉は、次々と金銀が剥がされ瞬く間に寄せられてしまいました。山崎八段の局面の間合いを図る絶妙なバランス感覚が光った一局となりました。

↑↑↑水匠5での解析結果↑↑↑

 

第6局 先手:藤井聡太竜王名人(西) 後手:羽生善治九段(東)

藤井聡太|棋士データベース|日本将棋連盟 (shogi.or.jp)

羽生善治|棋士データベース|日本将棋連盟 (shogi.or.jp)

最終第6局は、ファンの誰もが望んでいたビッグカードとなりました。昨年度の王将戦での戦いの記憶も新しいところですね。注目の戦型は角換わり模様に進みましたが、後手番の羽生九段が第1局でみられたような角道を開けるタイミングを遅らせる手法をみせました。後手番で角換わり腰掛銀を避ける有力な作戦とみられているのでしょうか。ただ、第1局とは異なり△6四歩~△6三銀とされていました(第1局は、△5四歩~△5三銀)。駒組が進み、藤井竜王名人が飛車先の歩交換を行った局面で、羽生九段は突如△3五歩と先手の桂頭を責めていきました。普通は桂頭を守って▲2六飛とするところですが、藤井竜王名人は強く▲3五同歩。続く△3六歩打にも平然と▲2九飛(図17)と桂損を甘受する指し手を選びました。よく見ると後手桂馬を得するのですが歩切れとなっており角頭が受けにくくなっています。局面のバランスは保たれているようで、ここら辺30秒将棋の中で読み切るプロの凄さを感じざるを得ません。中盤以降局面は激しさを増していきます。羽生九段が7、8筋から攻め立てましたが藤井竜王名人も上手く浮き飛車で持ちこたえます。羽生九段が△8六飛と走り、六段目に先手後手全ての大駒が並んだ非常に緊張感が高まります。ここで放たれた▲8八桂打(図18)がまた攻めを催促する好手でした。短時間でよく見えますよね。

以降藤井竜王名人の正確な差し回しが光り、▲6三歩打(図19)も細かい効かしです(△同玉とさせて後に△7八成桂の時の▲9六角打を用意)。羽生九段も△3九飛の王手馬取りで何とか挽回を図りますが、▲5五桂~▲8二飛打があまりにも厳しく藤井竜王名人の勝利となりました。羽生九段らしい踏み込みの良い激しい将棋でしたが、藤井竜王名人の対応が素晴らしかったです。この一局をもって西軍の4勝2敗となり西軍の勝利が決まりました。

↑↑↑水匠5での解析結果↑↑↑

 

エキシビションリレー将棋 

先手:豊島将之九段+藤井聡太竜王名人(西) 

後手:羽生善治九段+渡辺明九段(東)

ファン投票で選ばれた1位と2位の棋士がペアとなって戦うリレー将棋が最後に行われました。先手番となった西軍の豊島九段・藤井竜王名人ペアはこれで3年連続3回目のペアとなっており、人気の高さが伺われます。一方東軍は意外にも渡辺九段が初参加で初のペアとなりましたが、幾多の大勝負を戦ってきた者同士棋風など熟知し合っている同士ですね。注目の一戦は序盤の3手目から盛り上がりました。西軍久保九段・菅井八段の後押しがあったのか、豊島九段は飛車をおもむろに7筋に振りました(図21)。豊島九段の振り飛車は近年数局見かけましたが、藤井竜王名人の振り飛車は初めてでした。これには、東軍も考えてきた作戦がすべてパーとなり面を食らった様子でしたね。以降駒組が進み、先手は美濃囲い後手は穴熊に囲いました。穴熊に金が寄り付く前に先手は7筋から仕掛け、さらには▲6五銀(図22)と前線に繰り出しました。ここら辺の仕掛けの速さは居飛車的な感覚なことを局後に菅井八段が仰られていました。

以降難しい押し引きをする中盤の難所を迎えました。細かい数手の間に両チームともに作戦タイムを取っており、勝敗を左右しかねない緊張感高まった局面が続きました。そんな中光ったのは渡辺九段の指した60手目△4二角(図23)。一手前に▲5四歩と角の逃げ場を問われた局面で、素人的には▲7一歩成とと金を作られることを嫌って△6二角としそうなところです。ただ△6二角は西軍の読み筋でもあり、▲7五飛~▲8五飛で飛車交換をしたときに△6二角が浮いていて危うくなります。また、穴熊の堅陣があるからこそ桂損位はどうにでもなるといった対局観もあるのかもしれません。勉強になります。以降も東軍の綺麗な指し手が続き、途中▲7七歩成~▲7五角あたりの駒捌きは美しいです。最後も一手勝ちをしっかり読み切り△5七角打が決め手で東軍が勝利されました。東西対抗戦の借りを返した格好になりました。

↑↑↑水匠5での解析結果↑↑↑

クリスマスイブの中棋界を代表される大棋士の方々が集まり、どれも見応えのある対局を観ることができました。大満足です。印象に残ったのは、角換わりを避ける居飛車の新戦法の可能性と穴熊の不滅の強さでした。これからも目が離せませんね。

 

今回は、この辺りで失礼します。

 

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